本シリーズ記事では「デザイン思考とは」何かを中心に「アイデアの出し方」を学びましたね。
今回はデザイン思考の最終ゴールとでもいうべき「イノベーション創出」について学びましょう。
イノベーションとは、「新しいアイデアや技術を活用して、これまでにない価値を生み出すこと」です。
例えば、スマートフォンは電話機能にインターネットを融合させたことで、私たちの生活を大きく変えました。こうした「新しい価値を生む変革」がイノベーションです。
ビジネスにおいては、新しいサービスや仕組みを導入して、市場で競争力を高めたり、社会的な課題を解決したりすることがイノベーションの目的です。
この記事では、これまでに記載したことの振り返りも含め、デザイン思考とは、そしてデザイン思考を活用した成功の秘訣とは何なのか、掘り下げていきます。では「はじめに」前回の復習と発展的な学びで、より深く「デザイン思考」を理解し身に付けてください。
はじめに
デザイン思考について改めて考えてみましょう。
デザイン思考は、単に見た目をきれいにするためのものではなく、新しいアイデアを生み出し、問題を解決するための方法です。
私たちの周りには様々な課題があります。その課題を解決するとき、「どうすれば使う人が本当に喜ぶものができるだろう?」と考えるのがデザイン思考の始まりです。
この記事では、デザイン思考とは何か、どうやって実践するのか、そしてどうすれば会社の中で新しいアイデアを生み出せるのかについて、わかりやすくお伝えします。これからデザイン思考を学びたい方や、会社で新しいことに挑戦したい方のお役に立てれば嬉しいです
デザイン思考とは何か
デザイン思考とは、「人を中心に考える」イノベーションの方法です。デザイナーが用いる物事を考える方法を使って、ビジネスや社会の問題を解決していきます。この考え方は、スタンフォード大学やIDEOという会社によって広められ、今では世界中の企業や学校で使われています。
デザイン思考の一番大切なところは、「使う人の気持ちをよく理解する」ということです。例えば、新しい商品を作るとき、「こんな機能があれば便利だろう」と思いつきで考えるのではなく、実際に使う人の生活や悩みをよく観察し、「本当に必要なものは何か」を深く考えます。
また、デザイン思考では「論理的に考えること」と「創造的に考えること」の両方を大切にします。難しい問題に対しても、柔軟に対応できるのが特徴です。今のように変化の激しい時代には、とても役立つ考え方なのです。
デザイン思考の5つのステップ
デザイン思考は、5つのステップで進めていきます。順番通りに進むこともあれば、行ったり来たりすることもあります。それぞれのステップについて、「デザイン思考」記事シリーズの復習を兼ねて簡単に説明します。
1つ目は「共感する」ステップです。
使う人の行動や考え、気持ちを深く理解するために、観察したり、話を聞いたりします。このとき大切なのは、先入観を持たずに、相手の立場になって考えることです。言葉にされていない悩みや願い、また本人も自覚していない気持ちも見つけられるよう、じっくり向き合います。
2つ目は「問題を定義する」ステップです。
共感して得た気づきをもとに、「本当に解決すべき問題は何か」を明確にします。「どうすれば〜できるだろう?」という形で問題を考え直すと、新しいアイデアが生まれやすくなります。問題の定め方で、その後の解決策の質が大きく変わるので、ここはしっかり時間をかけましょう。
3つ目は「アイデアを出す」ステップです。
定義した問題に対して、できるだけたくさんの解決策を考えます。ブレインストーミングやスケッチなどを使って、まずは量を重視してアイデアを出します。このとき、「それは無理だよ」という批判は控えて、ちょっと変わったアイデアも歓迎することで、新しい解決策が見つかりやすくなります
4つ目は「プロトタイプを作る」ステップです。
選んだアイデアを素早く形にします。完璧である必要はなく、アイデアの核心部分が伝わればOKです。紙や段ボール、デジタルツールなど、手軽に使えるもので素早く作ることが大切です。
5つ目は「テストする」ステップです。
作ったプロトタイプを実際に使ってもらい、感想をもらいます。このフィードバックをもとに、プロトタイプを改良したり、場合によっては問題の定義に戻ったりします。テストは「合格・不合格」を決めるためではなく、学ぶための機会と考えて、失敗を恐れずに繰り返し行うことが大切です。
イノベーション創出におけるデザイン思考の役割
デザイン思考は、会社の中で新しいアイデアを生み出すのにとても役立ちます。従来の研究開発やマーケティングとは違い、使う人の視点から新しい価値を作り出すことができるのです。どのように役立つのか、具体的に見ていきましょう。
まず、デザイン思考は「使う人中心のイノベーション」を促します。技術やビジネスの視点だけでなく、人の視点を取り入れることで、本当に価値のある解決策が生まれます。使う人の隠れたニーズをよく理解することで、まだ市場にない新しい商品やサービスのアイデアを見つけられるようになります。
次に、デザイン思考は「いろいろな専門家の協力」を促します。異なる知識や経験を持つ人たちが一緒に働くことで、多様な視点からの気づきが生まれ、革新的なアイデアが出てきます。デザイン思考のワークショップは、部署間の壁を取り払い、会社全体の創造力を高める場になります。
さらに、デザイン思考は「素早く試して学ぶ」文化を育てます。プロトタイプを作ってテストを繰り返すことで、アイデアを素早く確かめて、改善できます。この「失敗から学ぶ」やり方は、リスクを小さくしながら新しいことに挑戦する効果的な方法です。変化の激しい今の時代には、この素早さが競争で勝つ秘訣になります。
成功企業に学ぶデザイン思考の実践例
デザイン思考をうまく活用して、新しい価値を生み出している会社はたくさんあります。ここでは、いくつかの成功例を紹介して、そこから学べることを探ってみましょう。
Appleの成功例
Appleは、デザイン思考を会社の文化の中心に置いている代表的な企業です。創業者のスティーブ・ジョブズは「デザインとは機能そのものだ」という考えを持ち、使う人の体験を最も大切にした製品開発を行ってきました。iPhoneやiPadなどの革新的な製品は、技術的に何ができるかだけでなく、人々の生活をどう変えるかという視点から生まれています。Appleの成功は、デザイン思考が単なるやり方ではなく、会社の価値観として根付くことの大切さを教えてくれます。
Apple | 公式サイト
メドトロニックの成功例
医療機器メーカーのメドトロニックは、デザイン思考を使って患者さん中心の医療機器開発を実現しています。この会社は医師や患者さんと密接に協力し、彼らの日常的な課題や不満をよく理解することから始めます。例えば、糖尿病患者さんのインスリン投与システムの開発では、患者さんの生活リズムや心理的な負担を考えた設計を行い、使いやすさと治療効果の両方を実現しました。この例は、専門的な分野でも使う人の視点が新しい価値を生み出すことを示しています。
メドトロニック | 公式サイト
Square(スクエア)の成功例
金融サービス業界では、フィンテック企業のSquare(スクエア)がデザイン思考を活用して、小さなお店向けの決済サービスを開発しました。創業者のジャック・ドーシーは、小売店主が直面する決済の面倒さという問題に注目し、シンプルで使いやすい解決策を提供しました。スマートフォンにつなぐ小さなカードリーダーという革新的なアイデアは、使う人の本当のニーズを理解することから生まれたものです。Squareの成功は、業界の常識を疑い、使う人の視点で考え直すことの価値を示しています。
Square(スクエア) | 公式サイト
デザイン思考を組織に導入するためのステップ
デザイン思考の価値がわかったら、次はそれを会社に取り入れるための具体的なステップを考えましょう。文化や仕事のやり方の変化を伴うので、計画的に段階を踏んで進めることが大切です。ここでは、デザイン思考を会社に根付かせるための実践的なステップを紹介します。
まず、「経営層の理解と支援を得る」ことが欠かせません。デザイン思考の導入は単なる新しいツールの追加ではなく、【会社の文化を変えること】を意味します。そのため、経営層がその価値を理解し、長い目で見てサポートすることが成功の鍵です。具体的な成功例や、デザイン思考がもたらすビジネス価値を示すことで、経営層の理解と支援を得られるでしょう。
次に、「小さなプロジェクトから始める」ことをお勧めします。会社全体に一度に導入するのではなく、特定のチームや製品開発プロジェクトでデザイン思考を試してみましょう。短い期間で具体的な成果を出すことで、会社内の理解と支持を広げられます。成功体験を積み重ねることで、少しずつ会社全体に広げていくことができます。
「デザイン思考の専門家や進行役を育てる」ことも大切です。外部の専門家の助けを借りつつも、会社の中でデザイン思考を実践・指導できる人材を育てることで、持続的な変化が可能になります。ワークショップや研修プログラムを通じて、デザイン思考の基本スキルを広く共有し、実践するコミュニティを作ることが効果的です。
「創造的な活動ができる場所を作る」ことも忘れないでください。デザイン思考を実践するには、自由な発想と協力を促す環境が必要です。レイアウトを変えやすい会議室や、アイデアを可視化するためのツールを備えることで、創造的な活動を支援できます。同時に、失敗を学びの機会と捉える安心感のある文化を育てることも大切です。
最後に、「成果を測り、継続的に改善する」プロセスを作ります。デザイン思考の導入効果を数字や質的な面から評価し、その結果をもとにやり方を改善していきます。顧客満足度、新しいアイデアの指標、プロジェクト期間の短縮など、会社の目標に合った適切な評価指標を設定することが大切です。
デザイン思考で直面する課題と克服法
「専門知識やスキルの不足」も課題となります。デザイン思考は一見シンプルに見えますが、効果的に実践するには特定のスキルが必要です。進行役の技術、インタビューの方法、プロトタイプ作りなどのスキルが不足していると、プロセスの質が下がる恐れがあります。
この課題に対しては、外部の専門家による研修やコーチングを活用することが有効です。また、デザイン思考を実践するグループを会社内に作り、経験やコツを共有する場を設けることも効果的です。少しずつ社内の専門家を育てることで、長く続けられる体制を作ることができます。
「成果の測りにくさ」も多くの会社が直面する課題です。デザイン思考の効果は、短期的な数字だけでは測りにくい面があります。この課題に対しては、短期的な指標と長期的な指標を組み合わせたバランスの良い評価の仕組みを作ることが大切です。
例えば、プロトタイプの数やユーザーテストの回数といった過程の指標、顧客満足度や採用されたアイデアの数といった中期的指標、そして最終的な市場での成果や収益性といった長期的指標を組み合わせることで、多角的な評価ができます。
「ユーザー理解の深さ不足」も見逃せない課題です。表面的なユーザー調査にとどまり、本当の気づきを得られないケースが少なくありません。
この課題に対しては、様々な調査方法を組み合わせることが効果的です。インタビューだけでなく、観察調査や現場での調査、ユーザーの行動の流れを図にするなどの方法を活用し、ユーザーの言葉にならないニーズや行動パターンをつかむことが大切です。また、調査チームに様々な背景を持つメンバーを含めることで、多角的な視点からの気づきが得られます。
デザイン思考とビジネス戦略の統合
デザイン思考の本当の価値は、それが会社の戦略と一体になったときに最大になります。
単なる問題解決の方法としてではなく、会社の戦略的な考え方の一部としてデザイン思考を位置づけることで、継続的に新しいアイデアを生み出す力を築けます。ここでは、デザイン思考と会社の戦略を効果的に一体化するための考え方と実践方法を紹介します。
まず、「お客様の価値と会社の価値の両立」を目指すことが大切です。
デザイン思考はユーザーのニーズに焦点を当てますが、それだけでは持続可能なビジネスにはなりません。ユーザーにとっての価値と、会社にとっての事業価値の両方を考えた新しいアイデアを追求する必要があります。
この両立を図るためには、デザイン思考のプロセスにビジネスモデルを組み込み、技術的に実現できるか、事業として収益が出るか、お客様にとって価値があるかの3つの視点からアイデアを評価することが効果的です。
次に、「長期的な目標と短期的な試みのバランス」を取ることが大切です。
デザイン思考は短期的な実験と学びを重視しますが、それらの活動が長期的な戦略目標に沿っていることが重要です。会社のビジョンや中長期戦略を明確にした上で、それに貢献するデザイン思考プロジェクトを計画することで、戦略的な一貫性を保ちながら柔軟な実験ができます。定期的に実験の結果を戦略的な視点から振り返り、必要に応じて方向性を調整する仕組みも大切です。
「会社全体のデザイン思考能力の向上」も戦略的に取り組むべき課題です。デザイン思考を特定の部門や専門家だけのものにせず、会社全体の考え方として広めることで、新しいアイデアを生み出す文化が育ちます。経営層から現場スタッフまで、それぞれの役割に応じたデザイン思考のスキルを身につけるための体系的な教育プログラムを作ることが効果的です。
また、人事評価や報酬制度にもデザイン思考の実践を評価する要素を取り入れることで、会社文化の変革を促進できます。
「デザイン思考を活用した戦略づくり」も重要なアプローチです。従来の戦略を作るプロセスにデザイン思考の要素を取り入れることで、より創造的で人間中心の戦略を生み出せます。
例えば、お客様や社会の傾向を深く理解するための共感の段階、複数の戦略シナリオを素早く検証するためのプロトタイプ作りとテストなどの方法を活用することで、不確実性の高い環境でも適応力のある戦略を構築できます。
デザイン思考の未来展望
デザイン思考は固定されたフレームワークではなく、社会や技術の変化とともに進化し続けています。
ここでは、デザイン思考の今後の展望と、会社がそのフレームワークを活用する方法を探ります。
未来を見据えることで、デザイン思考を継続的な新しいアイデアを生み出す力として活用する道筋が見えてくるでしょう。
「デジタル技術との融合」は重要な傾向です。
AIやビッグデータ分析、VR/ARなどの技術がデザイン思考のプロセスを強化し、新たな可能性を開きつつあります。
例えば、AIを活用したユーザー行動分析により、より深い気づきを効率的に得られます。また、VR/ARを用いたプロトタイプ作りにより、物理的な制約を超えた体験デザインが可能になります。
これらの技術を効果的に活用するためには、デザイン思考の本質を理解した上で、適切なデジタルツールを選び・導入する能力が求められます。
「社会的な課題解決への応用拡大」も注目すべき動きです。
気候変動や高齢化社会など、複雑な社会課題に対してもデザイン思考が活用されるケースが増えています。
これらの課題は多くの関係者が関わり、一つの解決策では対応できない特徴を持っています。デザイン思考の共感プロセスや協力して創るアプローチは、こうした複雑な問題に取り組む上で役立ちます。会社は自社のビジネス領域を超えて、より広い社会的な文脈でデザイン思考を活用する視点を持つことが大切になるでしょう。
「リモート・分散型のデザイン思考実践」も今後さらに発展すると予想されます。
グローバル化やリモートワークの広がりにより、物理的に同じ場所に集まることなくデザイン思考を実践する必要性が高まっています。デジタルコラボレーションツールやオンラインでの進行方法の進化により、離れた場所でのデザイン思考が可能になりつつあります。会社はこうした環境でも創造性と共創を促進するための新たなやり方を開発・導入することが求められます。
「継続的な新しいアイデア創出の仕組み作り」も重要な展望です。
一回限りのデザイン思考プロジェクトから、会社の日常的な活動にデザイン思考が組み込まれた状態へと進化することが理想的です。
そのためには、デザイン思考を支える組織構造、プロセス、評価システム、人材育成などを包括的に設計する必要があります。また、お客様、パートナー、スタートアップなど外部との連携を強化し、社内外の垣根なく、様々な知識や技術を取り入れてデザイン思考を活用することも大切になるでしょう。
まとめ:デザイン思考でイノベーションを加速させるために
この記事では、デザイン思考の基本的な考え方から実践方法、会社への導入ステップ、直面する課題とその乗り越え方、ビジネス戦略との一体化、そして未来展望まで幅広く説明してきました。
ここでは、デザイン思考を活用して新しいアイデア創出を加速させるための重要なポイントをまとめ、実践に向けた第一歩を提案します。
デザイン思考の本質は、「人間中心」のアプローチにあります。
技術やビジネスの視点だけでなく、常に人々の隠れたニーズや願いに焦点を当てることで、本当に価値のある新しいアイデアが生まれます。この原則を忘れずに、共感から始まる5つのステップを実践することが大切です。
特に、ユーザーとの深い対話や観察を通じて、表面的なニーズの背後にある本質的な課題を発見する力を養いましょう。
デザイン思考は「方法」であると同時に「考え方」でもあります。好奇心、共感力、実験精神、協力の姿勢など、デザイン思考を支える価値観や考え方を会社の文化として育むことが、継続的な新しいアイデア創出力の構築につながります。
上からの指示だけでなく、実践を通じてこれらの考え方を身につけ、会社全体に広げていくアプローチが効果的です。
デザイン思考の導入はイノベーションへの第一歩であり、すぐに完成するものではありません。
小さな成功体験を積み重ね、学びながら進化させていくことが大切です。完璧を目指すのではなく、「行動しながら学ぶ」というデザイン思考自体の原則を、その導入プロセスにも当てはめましょう。
失敗から学び、継続的に改善していく姿勢が、長い目で見た成功をもたらします。
最後に、デザイン思考は単独で機能するものではなく、会社の戦略、プロセス、文化と一体になってこそ本当の価値を発揮します。経営層の理解と支援、適切な人や予算の配分、評価の仕組みの整備など、デザイン思考を支える環境づくりにも力を入れることが大切です。
新しいアイデア創出は特定の部門や専門家だけの仕事ではなく、会社全体の取り組みとして位置づけることで、本当の変革が可能になります。
デザイン思考による新しいアイデア創出の旅は、挑戦と発見に満ちています。
この記事が、その第一歩を踏み出す勇気と知恵を提供できれば嬉しいです。
人間中心の視点から世界を見つめ直し、創造的な解決策を生み出す喜びを、ぜひ多くの会社や個人が体験されることを願っています。